2026年8月6日に「XR Kaigi Hub 名古屋」で開催されたセッション「AIエージェントと作るスマートグラス体験 〜今夜から始めるVibe Coding入門〜」の模様をレポートする。
スマートグラスを「AIと付き合う実験場」と位置づけ、コードを1文字も書かずにハッカソンで入賞したエピソードから、これからの人間が担うべき倫理観の重要性、そして完成品以上に「開発プロセス」自体に価値が移行しつつあるという次世代のキャリア論まで紹介していく。
登壇者紹介:鮫島 歩 氏(SiiiScaleStudios 代表)
教育事業家。「未来から逆算した”教育環境”と”学習体験”を次世代の担い手へ」をミッションに、教育×XR×AI領域で体験開発に取り組む。非エンジニアながらAIエージェントとの協働手法「Vibe Coding」を実践し、ハッカソンでの入賞やXR Kaigi Award最優秀賞など多数の実績を持つ。
教育現場にXR技術を導入、目覚ましい成長をみせる生徒の姿も
鮫島氏は、自身の教育領域でのXR実践事例を紹介した。鹿児島県南さつま市の学校法人希望学園鳳凰高等学校では、過疎地の交通課題を解消するための自動運転バス導入において、生徒たちが3次元空間のデザインツールを駆使し、バスのラッピングデザインを制作・プレゼンする授業が行われた。
さらに同校のサイエンスクラブの生徒たちは、UnityやUnreal Engine、Blenderといったプロ向けツールを活用し、フルスクラッチでXRゲームを開発している。彼らはオープンスクールで訪れた中学生に自作ゲームを体験させたり、地域イベントでバーチャルタレント(VTuber)体験を提供したりと、目覚ましい活躍を見せている。
鮫島氏は、ある高校生のエピソードを次のように語る。「中学時代からゲーム作りが大好きで入学してきた生徒が、九州で開催されたUnreal Engineの勉強会に登壇し、大人たちを驚かせました。参加者から『どんな思いで作っているの?』と聞かれた彼は、『本当に面白いゲームを作りたいんです。だからあんまり子供扱いして欲しくないんです』と答えました」。
鮫島氏はこうした次世代の担い手へ「当たり前の教育環境」を整えることこそが大人の責任であると語った。これらの取り組みは「XR Kaigi Award 2025」のアクティビティ部門最優秀賞として高く評価された。
スマートグラスは、AIとどう協働していくかを学ぶ「実験場」
教育現場での実践を経て、セッションの主題は「スマートグラス×AIエージェント」へと移行した。鮫島氏は2026年8月2日、スマートグラスとAIによる新しい体験を作り、試し、社会へ届ける有志コミュニティ「Smart Glasses Creative Lab」を立ち上げた。初回イベントには、スマートグラスを8台以上所有するようなアンテナの高いメンバーが集結したという。
なぜ今、スマートグラスなのか。鮫島氏は「フィジカルAIの中でも、最も個人の体に近い領域であり、個人から始められるのがスマートグラスである」と説く。産業用の高額なロボットとは異なり、個人が業務データを入れずに「どんなことができるか」を実験できる点が大きなメリットだ。
スマートグラスは単なるスマートフォンの代替品ではなく、AIとどう協働していくかを学ぶ「実験場」である。さらに、テクノロジー好きやXRに関心のあるビジネスパーソンにとって、スマートグラスに触れておくことはキャリア構築の観点からも重要であることもしてきた。
非エンジニアがAIハッカソンで入賞するまで
鮫島氏自身が実践している「Vibe Coding(バイブコーディング)」の開発事例も紹介された。自身を「非エンジニア」であると明言する鮫島氏だが、AIハッカソンのスマートグラス部門に参加し、見事第3位(賞金2万円)を獲得している。
開発したのは「Kokoro Gussuri」という、就寝前のメンタルセルフケアを目的としたアプリケーションだ。スマートグラスをかけたままでいると、AIエージェントが「今日はすっごいストレスがかかる1日だった。だから体の筋肉の力を抜いて、深呼吸してから入眠しよう」と音声でフィードバックを与えてくれる体験を構築した。このハッカソンでは英語でのプレゼンが求められたが、ClaudeなどのAIを活用して他者の発表中に英語資料を作成し、見事評価を勝ち取った。
驚くべきはその開発プロセスである。審査員からソースコードを見せるよう求められた際、鮫島氏は「Vibe CodingでAIに『寝る前にこういう表示が出て、こういうシーンに使えるアプリケーションを作りたいんだ』としか言っていないので、コーディングは全く1文字も書いておらず、コード1文字も見ていなかった」と振り返る。
また、「OpenAI Build Week Tokyo」で開催されたハッカソンでは、OpenAIのコーディングエージェント「Codex」を活用し、「爆運Codexer」というアプリを開発した。これは、スマートグラスのカメラで人間の顔を認識し、100人に1人の確率で「レアキャラ(爆運の人)」のロゴが重なるというエンターテインメントアプリである。この時、鮫島氏はCodexにスマートグラスの制約を聞くのではなく、「こんな体験を作りたい」という世界観だけを伝えた。するとCodex側から「本番環境だけでは、レアキャラが本当に出るか検証しづらいから、デモモードを作った方がいい」と機能提案まで行われたという。
このように、厳密な仕様書を書かず、AIに対して「こんなシーンでこんなことをしたいから作って」と感触(バイブス)やノリで依頼し、開発を進める手法が「Vibe Coding」である。
鮫島氏は、この手法に対して「エンジニアリングの軽視ではないか」という批判があることも理解していると述べる。製品として世に出す以上、セキュリティなどのエンジニアリングの基本は押さえる必要がある。しかし、「欲しいものをこうやって作ることができるんだ」という実感を得ることは、AIと共に働く時代において非常に重要な経験であると強調する。
「ボタンを押したら音声認識が始まるようにして」と機能単位で指示するのではなく「このスマートグラスをかけて、こんなシーンでこんなことをしたい」と体験を共有する。するとAIが「では、こういう機能を実装しましょう」と提案してくる。このAIとの「議論の仕方」「働き方」を身につけることこそが重要視される。
では、AIがコードを書く時代に人間が担うべき役割とは何か。鮫島氏は「人が握るべきところは、やっぱりアイデアや、目の前に何かがずっと表示されて点滅するのは気持ち悪い、といった人間の感覚です」と語る。
「これが気持ちいい体験なのかどうか」や、世の中に出してよいものかという倫理観・責任の引き受けは、絶対に人間が押さえるべきポイントである。AIから一発で完璧なものが出てくるとは期待せず、60%の出来でもまずは出力させ、細かくフィードバックを返して改善していく「小さくコミュニケーションを取るプロセス」が不可欠であると説いた。
成果物ではなく、プロセスに価値がある
セッションの最後には、鮫島氏が立ち上げた「Smart Glasses Creative Lab」の今後の展望が語られた。同コミュニティは、「EXPLORE(探究)」「BUILD(構築)」「DEPLOY(展開)」「CONNECT(繋ぐ)」という4つの柱で活動を展開している。
8月の初回イベントでは、2時間の「Vibeathon(Vibe Coding+ハッカソン)」を実施。参加者はわずか2時間で、たまごっち風のアプリや、頭の動きで操作する360度動画プレイヤー、空間コンピューティングを活用して人の名前を表示するアプリなど、多様な成果物を生み出したという。
鮫島氏自身は、このVibeathonの中で「Vibeathon分析システム」を構築した。これは、誰もが短時間でアプリを作れるようになった時代において「成果物じゃなくてプロセスに価値がある」と考えたためだ。AIとどんな会話をし、どう効率化し、どんなフィードバックを返して最終出力を良くしたか。教育に携わる鮫島氏らしく、プロセスをスコアリングし、データを蓄積してフィードバックサイクルを回す仕組みの重要性を参加者に提示した。
「好奇心ドリブンでAIを使い倒す若者たちを、大人の硬い考えで制限するのではなく、彼らが活躍できる環境を作っていきたい」と語る鮫島氏。9月6日に鹿児島、そして9月13日には名古屋で、 同様のVibeathon開催を検討しており、今後もXRやAIに関心のあるビジネスパーソン、開発者、そして学生たちを巻き込みながら、スマートグラスを用いた新しいクリエイティブの輪を広げていく構えだ。
次回は大阪で開催!「XR Kaigi Hub 大阪 2026」無料チケット受付中
「XR Kaigi」のローカル版イベント「XR Kaigi Hub」は、2026年9月9日(水)から10日(木)にかけて「XR Kaigi Hub 大阪 2026」を梅田 サウスホール(大阪市北区)にて開催いたします。
本イベントでは、XR、スマートグラス、フィジカルAI、メタバースに関する最新動向や活用事例の紹介をはじめ、出展企業によるソリューションやデバイスの展示、セミナーなどが実施される予定です。XRやAIに取り組む企業・開発者、新規事業担当者、DX担当者などを対象としており、9月9日(水)のイベント終了後には懇親会(参加費1,500円)も開催されます。
参加費は無料で、定員は400名(先着順)です。セッションのリアルタイム配信やアーカイブ配信は行われないオフライン限定のイベントとなっております。無料チケットの申し込みは現在Peatixにて受付中です。
| イベント名 | XR Kaigi Hub 大阪 2026 |
| 開催日 | 2026年9月9日(水)〜9月10日(木) |
| 時間 | 11:00〜17:00 |
| 会場 | 梅田 サウスホール |
| 所在地 | 大阪府大阪市北区梅田1丁目13−1 ツインタワーズ・サウス11F |
| 定員 | 400名(先着順) |
| 参加受付 | https://xrkaigihub-osaka2026.peatix.com/view |
| 参加費 | 無料 |
| 懇親会 | 2026年9月9日(水)17:30〜19:30 |
| 懇親会参加費 | 1,500円 |
| 主催 | XR Kaigi実行委員会(MyDearest株式会社内) |








