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Meta Quest 2024.06.27

MRの新しい価値 Metaの提案するライフスタイルを体験して気づいたこと

6月、東京港区の和風民宿「Araiya」で、Meta社がひとつの企画を実施した。民宿の暖簾には「MR HOUSE by Meta Quest」の文字。中に入ると、部屋のいたるところに置かれている、Meta Quest 3……。一軒家全体がMRコンテンツの体験会場と化していたのだ。

今企画は「Meta Quest 3を日本の日常に取り入れると、生活はどのように変化するのか?」を、来場者に知ってもらうという趣旨のもの。体験できるコンテンツは、MRモードが実装されているアプリがメインで、玄関や居間、寝室など、それぞれの場所をぐるりと回りながら体験していくことになる。さながら、新生活のスタイルを提案するルームツアーのような趣きだ。

著者も実際に参加した。あらかじめ断っておくと、著者はすでにMeta Quest 3を所持しており、今回用意されたコンテンツのほとんどを体験済みである。そのため、個々のアプリの詳細なレビューに関しては今記事では省略する。しかし、全く予期せぬ方向で、新鮮に驚いたポイントがあったので、今回はそこを掘り下げていこうと思う。

MRの魅力は“借景”にあるかもしれない

今企画で印象的だったのは、それぞれの場所ごとに体験できるMRコンテンツを変えていた点だ。例えば、玄関口では、ねこたちと交流できる人気アプリ「もっと! ねこあつめ」が用意されており、ヘッドセットを被ると、あたかも「主人の帰りを待って、ペット用ドアから出迎えてくれるねこ」が、その場にいるように感じられる。昔ながらの広めの土間玄関でエサを与えたり、抱き上げたりできるのも、いつものゲーム体験にプラスして「日本家屋で猫と一緒に過ごす」という風情を感じられた。

また、床の間では、自分の理想の家具を設置して、部屋の模様替えをイメージできる家具アプリ「Joyverse」、4畳以上のスペースの確保された和室では、ワークアウト用アプリ「Les Mills Body Combat」、畳にこしかけて大画面で鑑賞する「YouTube VR」など、それぞれのアプリをシチュエーションに合わせるようにしている。これまで、職場や自宅の仕事空間など、ごく限られた場所でのみアプリを使用していた著者にとっては「場所によってアプリを使い分ける」といった発想が欠けていたので、新鮮な驚きがあった。

そして、とあることに気づいた。そもそも、魅力的な和の空間の中でMRコンテンツを体感すると、満足度が全然違うのだ。座り心地の良い椅子に腰掛けて、iPhone 15 Proで撮影した「空間ビデオ(※超広角カメラを利用した立体視映像)」をゆったりと見たり、ソファでパソコンを開いて、作業用アプリ「Immesed」を開いたりしていると、何度も体験していることのはずなのに、何か“味わい”と呼べるものがプラスされているのである。

もしかすると、これまで自分のMR体験には重要なポイントが欠けていたのかもしれない。振り返ってみれば、著者がMRの魅力を記事で紹介する際は「現実の空間にバーチャルな異物が現れ、それぞれが融合していくかのような演出に対する感動」と「現実空間を目視できることで、家具やモノにぶつかる危険性が軽減される安心感」といった点を押し出すことが多かった。それは概ね間違ったものではない。しかし「現実の美しい空間を“借景”にしながら、バーチャルな体験に没入できる」という点には、気づけないままでいたのだ。

借景は、広義の意味で、自分のエリアの外側に広がる景色を、自分のエリアの一部として見なす(借りる)といったものだ。MR体験中のバーチャルな範囲を自分のエリアだとすると、外側に広がる現実の景色は、デバイスのカメラを使って取り込んだ(借りた)ものだと言える。つまり、MR体験中の我々は、知らず知らずのうちに現実側の借り物の景色も、バーチャルなコンテンツの一部とみなして楽しんでいることになる。

完全なバーチャル空間に没入するタイプのVRゲームは「ここではない、どこか全く別の世界に行ける」ことが何よりの魅力であるが、MRコンテンツは(良くも悪くも)強く現実を感じさせる点が大きな特徴である。だから、現実側の景色を、魅力ある場所に変えればいい。見慣れた生活感のある部屋の中でMRを体験するのも、それはそれで味があるものかもしれないが、自分の気に入る現実空間に移動して体験することで、なお味わいが増す。

断っておくと、これは「素晴らしい景色が眼前に広がっているのに、スマホばかり見てしまう」といった現象とは別種のものだ。なぜなら、スマホでは画面に集中して周りが見えなくなってしまうのと比べて、Meta Quest 3でMRコンテンツを体験する際は、自然と空間全体を見渡すことになるからで、先述の“借景”の意味合いが強いものとなっているのだ。

もっとMeta Quest 3を外に持ち出して、いろんな場所で体験したほうが良さそうだ。さまざまな旅行先に持ち歩くも良し、自分の部屋のインテリアを変更してみるも良し。現実空間を借景としてMRを楽しむことの魅力に、今後より目を向けていきたい。


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